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規格化と希薄化がデフレを生み出す [金融]

しばらく筆が遠のいていましたが,三連休の合間に少し書いてみようかと。

今日のテーマは「規格化と希薄化がデフレを生み出す」です。最近,先進国の中央銀行たちは競い合うように金融緩和を進めていますが,中央銀行なわけですから,景気浮揚策というよりはデフレ対策の目的がより大きいはずです。数十年前まではインフレこそが敵だったのですが,いまでは正反対のようです。積極的な金融緩和にもかかわらず,なぜデフレ懸念が解消されないのでしょうか。

注)ここでは物価上昇率のマイナスだけではなく,ゼロ近傍でうろうろしている状態も「デフレ」と呼ぶことにします。~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~

話がいきなり横道にそれますが,株式市場の世界で「希薄化」という言葉があります。wikiによれば,

「株式の希薄化(希釈化ともいう)とは,新株発行増資や株式分割などにより,株式会社の発行する株式数が増えたために,1株が表す株式の権利内容が小さくなることを指す」

とあります。つまり,株価とは企業価値を発行株式数で割った値ですから,企業価値が大して増加しないのに発行株式数が増加してしまえば,株価は下がります。(株価への影響については細かく議論するといろいろあるのですが,ここではこれ以上深入りしません。)

ところで,企業にとっては,新株発行によって株式市場から資金を集めたい一方で,上述した希薄化が発生すると既存株主から不満が出るので,なかなか頭の痛いところです。そこで,新規発行する株式の種類を既存の株式と権利内容を少し違ったものとすることで,希薄化を防ごうというアイディアがあります。

一例は「優先株」というもので,普通株よりも配当金の受取順位を高める代わりに株主総会での議決権を制約するというものです。(優先株にはいろいろバリエーションがあるのですが,ここではこれ以上深入りしません。) 優先株を新規発行しても普通株とは「混ざらない」ので,希薄化の影響は小さくできる可能性があります。ここまでは難しくないと思います。

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ここで話を戻します。唐突ですが,ここ数年のApple社の業績はすばらしいものがありますね。iPhoneとかiPodとかiPadといった看板商品が消費者の心を掴んだことが大きいわけですが,ここで注目したいのは,韓国サムソン社との間でデザインや技術特許について複数の国で裁判沙汰になっているという事実です。

ワタクシは,Appleの二本指操作を初めて見たときにかなりびっくりした記憶がありますし,極めてオリジナリティの高いものだという印象を受けたので,サムソンのスマホは「物真似」だという気がしていますが,ここでは「物真似」かどうかについては深入りしません。何が言いたいかというと,

「すばらしいアイディアの商品は大なり小なり真似されてしまい,いずれオリジナルとの差別化が図られにくくなる」

という法則です。「物真似」を無条件に許してしまっては,新しいアイディアを世に出そうという動きが出なくなり,そのために特許制度や意匠制度があるわけですが,ギリギリの線を目指そうという他社の動きまでは抑えられませんし,その程度は社会にとってはかえってよいことなのかも知れません。

ヒット商品のオリジナリティがこうやって失われていく状態は,商品の「規格化」が進むことと同義です。

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上の二つの話題から,デフレに関する「希薄化」「規格化」の効果について考えてみます。

モノの値段とは,材料費・工賃・運搬費といった純然たるコストの部分に「付加価値」を加えたものです。付加価値とは消費者がその商品に見出す付加的な価値のことであり,言ってみれば「空気」のようなものです。

付加価値の決定要因についてはいろいろ考えられるところですが,消費者サイドから言えば,iPhoneに付加価値を払うのはそのオリジナリティによる面が大きいことは間違いないでしょう。しかし,iPhoneの類似品が徐々に市場に広まると,iPhoneが「iPhone的なスマホたち」の中に埋没していきます。これが「規格化(コモディティ化)」という状況です。

規格化によってiPhoneが「iPhone的なスマホたち」の一つになってしまうというのは,iPhoneが類似品によって「希薄化」すると捉えることもできます。純然たるコスト部分は希薄化されないものの,付加価値の部分は確実に希薄化されます。いずれにしても,iPhoneの付加価値は下がり,価格に下方圧力が働くことになります。

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いかがでしょうか。このように考えてくると,グローバルに広まっているデフレ懸念の理由を以下のように考えることができます。

[1] 人々の間にモノが行き渡り,消費者の期待を上回るヒット商品が昔ほどには現れなくなった。

[2] 市場経済が発達し,モノのコモディティ化が昔よりも起こりやすくなった。証券化市場はその典型的な事例です。

[3] 資源の無駄遣いを減らそうとの意識が生産者サイドに広がり,生産部品の規格化や他社との共有化など,意識的な「規格化」が進んだ。

①については一時的な現象なのかも知れませんが,②や③については今後も継続的な力として働くという気がします。こう考えると,中央銀行がいくら頑張って流動性の供給を行ったりリスクマネーの供給を行ったりしても,「付加価値」に働きかけることができない限り,現状を大きく変えることは難しいのかも知れません。皆さんのご意見はいかがでしょうか。おしまい。
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