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エントロピーの話 [理数系思いつき]

どういう風の吹き回しか,最近こまめに更新しています。菅首相は週末挟んでじっくり組閣作業中だそうですが,それにしても土曜日曜に大臣内定者の名前がポロポロ流れてくるのは興ざめですね。月曜にビシッと発表すればカッコいいのに。。。

話は変わって,今日の話題は「エントロピー」です。エントロピーってなかなか馴染み薄い言葉ですよね。ワタクシが初めてこの言葉を知ったのは,大学の熱力学の授業か教科書からでした。その頃は目新しい概念だったので興味を持ちつつも,あまり勉強しない学生だったのであまりきちんと理解していなかったのですが,今日市立図書館でふと,その名もズバリ「エントロピー」(藤田祐幸,槌田敦著,現代書館)なる本が目に入り,つい借りてきました。今日は読書感想文も兼ねて,ワタクシの理解を深める意味でも,エントロピーについてなるべく平易な言葉で語ってみたいと思います。

[1] エネルギー保存の法則

唐突ですが,熱力学の世界では第一法則と第二法則というのがあります。第一法則は有名な「エネルギー保存の法則」で,第二法則が「エントロピー増大の法則」です。第二法則を理解するために,第一法則について簡単に触れておきます。

第一法則「エネルギー保存の法則」は何も熱力学に限った話ではなく,エネルギーというものはさまざまな形に姿を変えますが,その合計は変わらないというものです。特に熱力学の世界では,飛行機や車のエンジンの熱効率にからめて議論されます。飛行機や車のエンジンで燃料を燃やした場合,燃やした燃料のエネルギーの何割かは力学エネルギー,すなわち動力になりますが,残りは主に熱エネルギーになって逃げていってしまいます。大概のエンジンの熱効率(燃料のエネルギーのうち動力に変わる割合)は高々2~3割くらいのもので,結構もったいない話なのですが,逃げていった分も合わせると,エネルギーの合計は変わっていないわけです。エンジンそのものの熱効率を高めるような技術改良も大切ですが,こういう廃熱をうまく貯めておいて別の用途に使うことができれば,全体の熱効率を高めることができるわけです。ここまでは難しくないですよね。

[2] エントロピー増大の法則

上の流れで第二法則「エントロピー増大の法則」について語ってみます。ワタクシ流の定義をまずしておくと「エントロピーの増大とは,熱エネルギー以外の姿になっているエネルギーが熱エネルギーに姿を変えることによって,後戻りできない方向に進むこと」です。この表現はやや不正確なので後で少し直しますが,いったんはこれで飲み込んでください。

上の説明で重要なことは,第一法則がエネルギーの等価性(どんなエネルギーであろうが合計は変わらない)について述べているのに対し,第二法則はエネルギーの不可逆性(等価だからといってどんなエネルギーにも姿を変えられるわけではない)について述べているということです。もっと平たく言うと,他のエネルギーから熱エネルギーに姿を変えるのは可能だが,熱エネルギーから他のエネルギーに姿を変えるのは(外からの助けがない限り)不可能だということです。このように,エネルギーの姿が後戻りできない方向に進むことを「エントロピーが増大した」と表現するわけです。

[3] エントロピーとは何か

なんだかわかったようなわからないような説明だったかも知れません。それもそのはずで「エントロピーとは何か」について語らずに「エントロピーの増大とは何か」について語っているからです。しかし,ワタクシにはこういう説明しかできません。「エントロピーとはエネルギーの状態の後戻りできなさ加減(不可逆性)を表す値のことである」と。

こう考えると,第二法則「エントロピー増大の法則」は結局のところ「熱エネルギーの移動を伴う状態の変化は後戻りできない」といっているのに過ぎません。熱を出さないような変化であればエントロピーは横ばいのままですが,エンジンで動力を作り出すような場合は熱を出さないわけにいきませんから,必ずエントロピーが増大するというわけです。

エンジンの話に戻ると,化石燃料を燃やすと熱が出ますから,エントロピーが上がります。同じように,燃える,錆びる,酸化するといった化学変化はエントロピーを増大させます。別の例では,濃い塩水と薄い塩水を別々のコップに入れておいた状態から,同じコップに静かに移し変えると,はじめは分かれていたのがだんだん混ざってきて,最後は均質な濃度の塩水になりますが,このときも混ざる過程で熱が発生しており,エントロピーが上がります。

[4] エントロピーは不要物だ

さて,エンジンが駆動し続けるためには熱を捨てる必要があります。排気ガスがまさにそれで,燃えカスである二酸化炭素や水を捨てていると同時に熱も捨てているわけです。それと同時に,エントロピーも捨てているわけですね。熱を捨てることで,エンジン内のエントロピーを一定に保っているわけですが,外界のエントロピーは確実に上がっています。

はっきりいえば,エントロピーは不要物です。エントロピーをエンジン内に貯めておくと,エンジンはうまく動かなくなります。エントロピーを捨てるということは,温度の高い空気を温度の低い空気に入れ替えるということであって,もしも取り込まれる空気が高温だったら,エンジン内が最適な状態を維持できずにうまく動かなくなるというわけです。

もう少しイメージを膨らませると,エンジンとは,温度の高いところから低いところに熱エネルギーを渡しつつ,その「ついで」に動力を作り出すというシステムなんですね。その逆,すなわち温度の低いところから同じあるいは高いところに熱エネルギーを渡しつつ,その「ついで」に動力を作り出すというシステムは作れない,これが第二法則の別の表現です。

エンジンの話ばかりしてきましたが,人間の体もエンジンみたいなものです。外界から食べ物を摂取して,体内で燃やしながら動力を作り出し,不要物を外界に排出することで,体内のエントロピーを一定に保っているというわけです。しかし,歳をとるとエントロピーが体内に残留しやすくなり,人体というシステムがうまく動かなくなり,最期は死んでしまうというわけです。よく新陳代謝っていいますが,エントロピーをうまく体外に排出することであって,健康で長生きするためにはとても大切なことです。

[5] エントロピーはなぜ減少しないか

エントロピーのイメージがだいぶ湧いてきたでしょうか。そろそろこんな疑問が出てきませんか。「エントロピーはなぜ減少せずに増大する一方なのか」。あらゆる物理法則は「こういう法則だとうまく説明できそうだ」という筋合いのものであって,なぜそうなるかは神が決めたことだということになります。だから,いまから語ることも答えになっていませんが,なるべくイメージを共有できればと思います。

さっきの塩水の例に戻ります。濃い塩水と薄い塩水を別々のコップに入れておいた状態から,同じコップに静かに移し変えると,はじめは分かれていたのがだんだん混ざってきて,最後は均質な濃度の塩水になります。逆にもしも,均質な濃度の塩水を置いておいたら,だんだん濃い部分と薄い部分に分かれてくるような事態が起これば,確かにエントロピーが減少したことになりますが,経験的にはこんなこと起こりませんよね。ワタクシだったら「均質な塩水の方が(エネルギー的に)安定しており,自然は安定を望んでいるから」と説明したいところですが,答えになっていませんね。やっぱり神様に聞いてみるしか。。。

不可逆変化が進行し,エントロピーが増大していくと,物事は無秩序・乱雑に向かっていきます。濃度の均質な塩水の方がそうでない塩水よりも乱雑です。だから「自然は無秩序・乱雑を望んでいるから」という答えもありそうですね。もちろん,無秩序といっても物理的な意味での無秩序なわけですが,これを一般生活に拡大解釈して,整理整頓された部屋が乱雑になってしまった場合にエントロピーが上がったという例え話をすることがあります。熱エネルギーの移動を伴わない限り,物理的な意味ではエントロピーは変わっていません。

[6] 情報理論におけるエントロピー

エントロピーを無秩序・乱雑の度合いと考えると,情報理論の分野でもエントロピーを考えることができます。例えば,「ほほほほほ・・・」と同じ字が並んでいるような文章は何の情報も持ちませんが,これは均質な塩水のようなもので,情報エントロピーが極めて高い状態にあると解釈できます。しかし,「ほんはふは・・・」「ほんひふは・・・」「ほんじつは・・・」となってくると,秩序めいたものがみえてきて,情報エントロピーがより低い状態にあると解釈できます。

別の例で言うと,すべての数字がランダムに並んでも何の情報も持ちませんが,意味を持たせるように並べると,電話番号になったり口座番号になったりするわけで,これもエントロピーの違いで説明できます。ただし,これらの例では,エントロピーの定義(乱雑さの定義)を別途与えてあげないと意味がないという点で,熱力学におけるエントロピーとは異なるわけです。15343と22154のどちらがよりエントロピーが高いかは,定義の問題だということです。

[7] エントロピーと生活

さて,エントロピーについて長々語ってきましたが,「それはそれとして,エントロピーがいったい生活のどんな役に立つのか」についてはどうでしょうか。以下は冒頭の本を読んで「ほう」と思った部分です。抜書きではなく,ワタクシの解釈になっていますが。。。

化石燃料は長年かけて作られた,エントロピーが非常に低いエネルギーですが,これを人類はどんどん掘り出して燃やし,この結果,地球のエントロピーはどんどん高くなっています。つまり,化石燃料の枯渇も大問題なのですが,エントロピーが地球にどんどん溜まっていることも大問題なのです。二酸化炭素の増加によるオゾン層の破壊もそうですし,原子力発電所の使用済み燃料も将来の被爆リスクと付き合っていかなければならないという意味で,同質の問題です。エントロピーを体内に抱えていると働きが悪くなってしまい,しまいには滅亡に至るわけですが,重力があるためになかなかエントロピーを地球外に捨てにいくわけにいきません。

ただし,救世主がいないわけではありません。それは「太陽」です。太陽エネルギーは絶え間なく地球に降り注いでいて,化石燃料も元はといえば太陽エネルギーが植物の光合成によって低エントロピーのエネルギーとなって固定されたものです。つまり,太陽と植物の組み合わせによって,地球のエントロピーを減らすことができるというわけです。この意味で森林資源の維持は最重要対策です。

森林資源の維持と並行して,エントロピーをなるべく増やさないような生活を心がけることも重要です。エントロピーをなるべく増やさないようにするには,システムの熱効率を高める工夫と努力を怠らないことと,化石燃料や原子力といったエネルギーをなるべく効率よく使うことです。前者については,自動車であれば巡行速度を守ることを心がければ設計された最大熱効率が実現しやすくなって燃費がよくなりますし,人間であれば暴飲暴食を避けて健康的な暮らしを心がけるといった話でしょうか。人間と自転車の組み合わせは(徒歩には劣るかもしれませんが)熱効率がかなり高いそうです。後者については,何より太陽エネルギーの活用に向けた研究を進めること,風力とか水力とか潮力といったエネルギーの活用にも叡智を結集する必要があるでしょう。

最後は説教くさくなってしまって,偉そうになってしまって申し訳なかったですが,めずらしく「理数系思いつき」のテーマに沿ったネタだったかと思います。
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harusugite

福島原発の大事故をきっかけに、闇雲に本棚を探して見つけて読んでみたものの、「エントロピー」の解釈に苦しんでいたところでした。もっとも、この概念を理解せずとも、藤田氏の言わんとするところ(或いは、私自身が今読みたいと思っていること)=原発の怖さは十分伝わってきたので、今こそ沢山の人に読んでほしい一冊だと思います。
by harusugite (2011-04-04 06:36) 

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