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不動産ノンリコースローンのモデル化(2010/07/09からの続き) [金融]

もうずいぶん経ちましたが,2010/07/09に書きかけていた「不動産ノンリコースローンのモデル化」 http://himakou.blog.so-net.ne.jp/2010-07-09 の続きを考えてみようと思います。前回までの暫定的な結論は以下のようなものでした。「不動産価値(Value)を直接確率モデル化することを基本線に置くのがよさそう。確率モデル化する場合,ノンリコースローンは(優先劣後構造の存在により)Valueの上に書かれたオプションと考えることができる。したがって,ブラックショールズの株式オプションの結論が援用可能である。」

さて,Valueの確率モデル化に際しては,ブラックショールズに倣って対数正規過程に従うことにします。リスク中立測度の下であればValueの期待成長率は安全金利に一致することになるでしょう。賃料収入が外部流出するならばValueの期待成長率は安全金利を下回ることになりますが,ノンリコースローンの実行は不動産事業を丸抱えする形で行われるのが普通ですから,外部流出はとりあえず考えないことにします。ここまでは大丈夫そうですね。

ここからいろいろな仮定が入ってきます。まず,Valueの現在値を市場から観測しなければなりませんが,鑑定評価は頻繁には行わないのが普通であり,類似物件の取引実勢から類推(=外挿)することが避けられません。これについては,類似物件の選択が適切かとか取引実勢を安定的に観測可能かといった点について説明力を確保しておく必要があります。

Valueの現在値が決まったとして,オプション評価に必要なのはValueの変動性(=ボラティリティ)です。株式オプションの場合は原資産のヒストルカルデータから統計的に推定するということも行われますが,オプションプライシングの観点で言えば通常は類似したオプションの取引実勢から逆算したインプライドボラティリティを用いる方がリスク中立測度の議論に合うはずです。しかし問題は,類似したノンリコースローンの取引実勢を観測することがほぼ望み薄なことです。あきらめてヒストリカルボラに走るしかないのでしょうか。

いえ,もう少しもがいてみましょう。ノンリコースローンの取引実勢の観測は期待薄ですが,商業不動産モーゲージ債券(CMBS)の取引実勢はいくらかは観測できるでしょう。CMBSはノンリコースローンを束ねて優先劣後構造を設けて証券化したものであり,優先劣後構造を適切に処理する限りにおいてノンリコースローンと極めて類似した金融商品といえます。CMBSの取引実勢を使わない手はありません。

多少の光が差してきましたが,プライシングしたいノンリコースローンと類似した裏付資産を持つCMBSの取引実勢がそうそう豊富に入手できるわけではありません。CMBS市場に詳しい人にヒアリングしてみると,CMBS市場には「指標銘柄」的なものが認知されており,証券会社のディーラーたちは「指標銘柄」の取引実勢から類推して他の銘柄を値付けするそうです。

具体的には,「指標銘柄」の取引実勢からCMBS市場全体(ひいてはノンリコースローン市場全体)におけるリスクプレミアムを推定し,これを他の銘柄にも転用するといった手口が有力に思えます。しかし,ここで最大の問題は「何に対してどのようにリスクプレミアムを乗せるのか」です。これはモデルの心臓部に相当しますが,いま考えているのは各Valueのヒストリカルボラに一律の掛け目(1.1とか1.2とか)を掛けることでリスクプレミアムを表現することです。

<以下続く>
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