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EUの財政統合について [金融]

今日から週末にかけて,欧州政府首脳および欧州中銀が欧州危機の打開策について協議することになっています。今日はこの話について思っているところを。

http://www.bloomberg.co.jp/news/123-LVV57507SXKX01.html今回の欧州危機は,EU(欧州連合)の問題というよりはEMU(欧州通貨連合)の問題といえます。つまり,壮大な実験と言われた,国家を跨いだ欧州統一通貨「ユーロ」が今日的にどういう問題を抱えているかという,高度に経済的な制度運営の話であるということです。

日本を含めた多くの国はその国独自の通貨を持っているわけですが,国際貿易がなかった時代はともかく,現在のようなグローバル社会において「一国一通貨」にどういう意味があるかと考えると,「自分の国だけが自分の通貨の需給をコントロールできる」ということだと思います。例えば,日本政府・日本銀行の知らないところで一万円札が大量に発行されて日本国内に流通すれば,円の価値が低下してインフレになってしまい,国民生活は混乱してしまうでしょう。このため,紙幣の発行権限は日銀に限られ,偽造紙幣は厳しく罰せられます。

もう少し掘り下げてみましょう。紙幣の発行権限が日銀に限られているのはよいとして,日銀は何を裏付けに紙幣を発行できるのでしょうか。かつての金本位制の時代には日銀が保有する金が裏付けだったわけですが,現在では日銀の保有資産が裏付けということになるでしょうか。このため,日銀に限らず各国中央銀行は安全性の低い資産を保有するのを嫌うものでしたが,最近では金融政策の一環として株式や不動産を保有することを始めています。万万が一,日銀の保有する資産が劣化して紙幣の裏付けが脅かされた場合には紙屑になってしまう恐れが出てくるわけですが,最終的には日本政府が救済する格好で,紙幣の価値は守られることになります。

さらに掘り下げてみましょう。日本政府が日銀を救済した場合,紙幣の実質的な裏付けが何になるかということですが,最終的には憲法で守られた徴税権ということになります。ただし,徴税権は当然ながらその国の経済情勢によって価値が上下するので,経済情勢がよい国の通貨は市場で高い評価を得ることになります。

そろそろ「ユーロ」の話に戻ります。前段を踏まえ,「ユーロ」の抱えている問題は何かと言うと,「ユーロ」の裏付けとなっている加盟国政府の有する徴税権の価値のうち,一部の加盟国の分が低下しているということです。ギリシャの財政赤字の問題は,財政赤字それ自体が問題なのではありません。財政赤字の原因がギリシャ国民の納税力低下にあると市場に思われていることが問題なのです。イタリアも同じです。

意外と誤解されやすいのですが,財政収支は単年度のフローにすぎず,ある年に赤字だったからといってすぐさま問題になるわけではありません。ただし,累積された財政赤字がある場合には,返済プランがイメージできない限りは不安です。累積された財政赤字の削減は,資産の売却か税金で埋め合わせるしかありませんが,政府が優良資産を保有している場合には税金のことをあまり心配しなくていいですし,政府が優良資産を保有していなくても将来的な税収が期待できれば同様です。

このように考えると,ギリシャやイタリアよりもGDP対比政府債務が大きい我が国の通貨がなぜ嫌われないかというと,国債を主体とした政府債務の引き受け手が日本人(主に日本の金融機関)であるという点が大きいわけです。相手が日本人であれば,引き受け手からの納税を債務と相殺するイメージをより持ちやすくなります。

というわけで,EMU危機の処方箋は,加盟国トータルでの徴税権の価値を維持することであり,財政規律を強化することの優先順位はこの後だと思います。財政規律を強化することが徴税権の価値の維持につながるのであればいいんですが,一般には逆効果だと思います。

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最後に卑近な話でまとめたいと思いますが,借金それ自体は悪いことではなく,受身の借金がマズいのでしょう。返済のあてがなく,利息すらも払えないがために借金が膨らんでいくのはいけません。将来の収入を当て込んで戦略的に借金を行うのは,生きたお金の使い方といえるでしょう。今日の円高は,市場が我が国の政府債務に一定の戦略性を期待しているためとはいえないでしょうか。真実はともかくとして。
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