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不動産ノンリコースローンのモデル化(2011/04/07からの続き) [金融]

久しぶりの更新です。ときどき続けて書いている「不動産ノンリコースローンのモデル化」 http://himakou.blog.so-net.ne.jp/2011-04-06 の続編を書いてみようと思います。前回までの結論は以下のようなものでした。

(1)不動産価値(Value)の挙動をブラックショールズに倣って対数正規過程に従うことにする。リスク中立測度の下であればValueの期待成長率は安全金利に一致することになる。なお,Valueの現在値は類似物件の取引実勢から類推(=外挿)することにする。

(2)Valueの変動性(=ボラティリティ)については各Valueのヒストリカルボラに一律の掛け目(1.1とか1.2とか)を掛けることでリスクプレミアムを表現することにする。掛け目の値については,指標的なCMBS(商業不動産担保証券)としてのCMBX市場実勢から推定する。

しかし,実際にやってみるといろいろと問題が出てきました。問題とは何かというと,

「ボラティリティの大小だけではCMBXの各トランチの市場実勢にうまくフィットできない。具体的には,下位トランチが割高にみえ,上位トランチが割安にみえてしまう。」

というものです。CMBXについての説明が不十分だったのかも知れないので,あらためて解説しておくと,CMBXとは発行残高の大きいCMBSの平均単価をデリバティブとして取引する(=実物を取引するのでなく,価格差を定期的に差金決済する取引する)ものですが,CMBSが実際そうであるために,劣後サポートの厚いもの(上位トランチ)から薄いもの(下位トランチ)まで合計7つのクラス(AAAからBBBまで)が存在します。上で嘆いたのは,上位トランチの市場実勢にフィットさせようとすれば下位トランチにフィットできず,vise versa(逆もまた同様)となるようです。これが何を意味しているかというと,

「市場参加者のリスクプレミアムは不動産価値の意味で対数正規分布に従わない。すなわち,不動産価値は対数正規分布よりは左端の裾が薄い(=価値下落方向のリスクプレミアムが形状として小さい)」

ということです。ここにきて,鉄板だと思われていた不動産価値のブラックショールズ的な対数正規過程が否定されているわけです。しかし,しかし,ここで対数正規過程を捨て去るのは失うものがあまりにも大きい。。。

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。。。とはいっても,対数正規過程にこだわる限り,先行きの目途が立ちません。というわけで対数正規過程から離れることにしますが,かといって代わりの「それらしい」分布が見つかる当てもありません。ここはいったん不動産価値の確率過程から離れてみようと。

具体的には,現在のLTV(=ローン残高÷不動産価値)とリスクプレミアム考慮後累積期待損失率(ExpLoss)の関係を直接モデル化しようというのです。いろいろ考えて,これがいいかなと思いました。



ここで,Tはローンの残存期間,λはある定数です。重要なことは,T=0のときはExpLossに関する不確実性がない(※)ためにでなければならず,これに残存期間の効果をモデル化したわけです。

※ 残存期間がゼロだからといってExpLossに関する不確実性がないかどうかは,モデル化の領域といえます。不動産価値の現在値を類似物件の取引実勢から類推(=外挿)している以上,そこには一定の不確実性が存在しうるというモデル化も可能でしょう。要はモデル化の過程で優先順位をどうつけるかの話です。

実際,λ=10%のケースでグラフにしてみました。λ>0なので,残存期間(T)が長くなるほどリスクプレミアムが拡大している様子がよくモデル化できていると思います。終わり。

LTV.JPG
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