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銀行が愚かなのでデフレは悪いという話 [金融]

久々に時間に余裕のある週末なので,最近のホットイシューである「デフレ対策」について,思うところを述べてみたいと思います。

最近,日銀の評判が芳しくありません。白川総裁を解任すべきとの論調すら出てきています。これは,最近の白川総裁の発言には「インフレターゲット」の達成に向けた意欲が感じられないからというのがその理由のようですが。。。

日本に限らず,グローバルに問題視されているデフレですが,今回のテーマは「デフレって何が悪いのか?」です。はじめに,デフレの定義ですが,「財やサービスの価値に対して貨幣価値が上昇すること」というのが無難なところでしょうか。すなわち,財やサービスと貨幣の相対的価値の変化を指すのであり,反対語はインフレです。(なお,以下では「貨幣」と「通貨」は同じ意味で用います。)

デフレの一例は,昨日まで1000円でやってくれた床屋代が今日から900円になるといったものであり,床屋のお客にとってはありがたい話のようにも思えます。しかし,床屋の売上は100円減りますから,床屋の経費削減策の一環で,店員の給料が減ることになります。しかしそうなると,床屋の店員は自分の生活を切り詰めて支出を抑えることになるため,例えばスーパーマーケットの売り上げが減るかも知れません。

ところで,さっき床屋代の値下げで得をした床屋のお客はスーパーマーケットの店員だったかも知れず,そうなると彼の給料が減ることになります。しかしそうなると,スーパーマーケットの店員は自分の生活を切り詰めて支出を抑えることになるため,例えば床屋に行く頻度を減らすかも知れません。こんな調子で不景気が進んでいく,すなわちデフレスパイラルが起きるよというのが,デフレ反対派,あるいはインフレターゲット賛成派の主張なわけです。

しかし,これに対しては有力な意見,例えば池田さん http://trackback.blogsys.jp/livedoor/ikeda_nobuo/51793498 や池尾さん http://trackback.blogsys.jp/livedoor/ikedanobuo/1463344 があって,つまり,貨幣価値の相対的な上昇であるデフレは,給料の名目値を減らすが,財やサービスの値段も下げるので,モノによって爬行性はあろうものの,実質的な経済規模に影響するわけではなく,デフレが不景気の原因となるわけではないという主張です。簡単に言えば,貨幣価値の変動を除去したベースでの経済活動の規模,すなわち実質GDPには影響しないということです。ワタクシも基本的にこの立場です。

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これで話が終わってしまいそうですが,池田さんや池尾さんの議論については多方面からの批判があることも事実のようです。池田さんや池尾さんのような経済学者の方々にとっては「そんなことは経済学の基本だ」ということですが,経済学専攻以外の,おそらく頭脳明晰な方々からも批判があるところをみると,陥りやすい落とし穴があるのかも知れません。なあんて偉そうに言っても,航空工学専攻のワタクシも上から目線でモノが言える立場ではないのですが。。。

ワタクシが調べた限りでは,批判は概ね以下の二種類に集約されそうです。

1) デフレは,給料の名目値も下げるし,財やサービスの値段も下げるが,両者の下落にはしばしばタイムラグが生じるため,両者が交互に起きる過程でデフレが止まらないケースが考えられるのではないか。いわゆる貨幣錯覚の連鎖とでも言うべきもの。

2) デフレは,給料や財やサービスの値段だけでなく,不動産の名目価値も下げる。この場合,不動産を担保に銀行から融資を受けている企業は融資額を絞られることになるが,これは貸しはがしとか金融収縮とか言われる,金融機能不全の状況ではないか。

まず,1)についてはそれほど大げさに考えるべきではないと思います。なぜかというと,貨幣錯覚の連鎖が続いたとしても実質的な価値の相対関係はほとんど変わらないからです。「床屋が値下げした→床屋の店員の給料が減ったのでスーパーでの買い物を減らした→スーパーの売り上げが減った→スーパーの店員の給料が減ったので床屋に行く頻度を減らした→床屋が値下げした→・・・」といったプロセスがいくら続こうが,床屋の店員もスーパーの店員も生活水準は変わらないでしょう。床屋に行く頻度も結局は減らないし,スーパーで買うキャベツの数も結局は減らない。もしも減ったなら,それはもともと行かなくてもいい床屋に行っていただけだし,買わなくてもいいキャベツを買っていただけです。

しかし,2)については注意が必要にも思えます。不動産の名目価値の下落に伴う,名目融資額の減少は1)と同様に大した話ではありませんが,銀行の行動としては,名目融資額をじわじわと減らしていくのでなく,「担保の少ないあなたにはもはや融資できません」という,1か0かという話になってしまいがちだからです。貸しはがしが問題なのは,「100万円借りたかったのに90万円しか借りられなかった」という量的な問題ではなく,「100万円借りたかったのに1円も借りられなかった」という質的な問題となってしまうからです。

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上のように考えれば,銀行の貸しはがしがエゲツないのもそういうものかなという気もしますが,ワタクシはここでようやくヒネクレます。貸しはがしは銀行の与信管理能力の欠如を意味すると思います。

銀行から融資を受けている企業は,デフレによってさまざまな資産の名目価値が一様に下落しているわけですが,銀行がこれをデフレ的な減少と捉えれば,名目ベースの融資額を減らすことで自らの防衛を図ればいいだけですが,多くの銀行はこれを融資先企業の信用力悪化と捉えてしまうために,名目ベースの融資額を減らすだけでなく,最悪の事態,すなわちデフォルトのリスクを恐れて全額回収を図るわけです。これがデフレと貸しはがしの関係です。

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そろそろ結論です。「デフレって何が悪いのか?」という問いかけに対しては,ワタクシは以下のように答えたいと思います。

「デフレ自体は,財やサービスの名目値と貨幣の名目値の相対関係を変えるだけなので実質的な経済規模には影響せず,この意味ではデフレが不景気の原因となるわけではない。しかし,金融機関はデフレによって「名目担保価値の低下」を「与信先のデフォルトリスクの高まり」と錯覚するため,結果として信用収縮につながり,つぶれなくてもいい企業がつぶれることにより不景気となりうる。」

「この意味において,中央銀行が株や不動産といったリスクのある資産の購入を行うのは,単なる資金供給を行うためではなく,銀行の低い与信管理能力を補うねらいであり,銀行が進化しない限りは止むを得ない措置であると言える。」

「いわば中央銀行は,民間銀行が進化するまでの,「大きな政府」ならぬ「大きな銀行」である。」

今回はかなり自分らしさが出せたかなと思っていますが,いかがでしたでしょうか。おわり。
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