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実質経済成長は消費を我慢したことのご褒美である(2013/01/25の続き) [金融]

こんばんは。前回はアベノミクスについて「景気浮揚のために積極的な金融緩和や財政政策を行うのはいいが,デフレ脱却を目標とするのは適切でない」という主張を展開しました。今回はこれをもう少し深掘りしてみたいと思います。

前回→http://himakou.blog.so-net.ne.jp/2013-01-25前回の繰り返しになりますが,「実質経済成長率=名目経済成長率-インフレ率」なので,実質経済成長率を安定的にプラスに保つにはインフレ率が低い方が実現しやすいはずです。これに対しては「名目経済成長率に働きかければインフレ率にも影響があるのは止むを得ない」という開き直りがありそうですが,アベノミクスによって名目経済成長率以上にインフレ率が上昇するといった事態が起こらない(あるいは起こりにくい)ことの説明がほしいところです。

大体において,インフレ期待を煽って民間貯蓄を投資や消費に向かわせようという発想はバブルそのものです。結果的にそうなるのは止むを得ないとしても,インフレ期待を煽るのでなく,企業収益あるいは家計収入の増加を経由した企業や消費者の自然な発露として投資や消費に向かうというのが王道だと思います。

「そんな正論を言っている段階ではないからアベノミクスが必要なのだ」という主張もわからないではありませんが,インフレ期待を煽って景気浮揚を実現したとき,本当に国民が望んだ経済社会になっているのでしょうか。

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ワタクシの主張を確認するために,簡単なモデルで考えてみたいと思います。消費者であるワタクシがいま10万円の現金を持っているとします。この10万円を使って高級料亭で思い切り贅沢するか,それとも10万円を株式投資に回し,1年後に高級料亭で思い切り贅沢するか,という二者択一を考えます。

株式投資に回した10万円は1年後に名目経済成長率並みに膨らんでいると考えられます(※)が,高級料亭の料金も1年分のインフレ率で膨らんでいると考えられます。両者の差が実質経済成長率ということになりますが,つまりどういうことかというと,贅沢を1年間我慢したことのご褒美が実質経済成長率であるというわけです。

※ もちろん株式投資にはリスクがあり,名目経済成長率に完全連動するとは断定できませんが,ここでは大まかな水準感の話をしています。

例えば,実質経済成長率が2%であるとしましょう。ワタクシは,贅沢を1年間我慢したことのご褒美が2%で十分だと思えば10万円を株式投資に回し,不十分だと思えばいま贅沢するでしょう。すなわち,名目経済成長率やインフレ率がどうであるかは関係なく,実質経済成長率と自分のご褒美相場の大小関係のみによってワタクシの消費活動が決まるということです。

したがって,ワタクシの消費活動はデフレ脱却するかどうかには左右されないわけです。デフレ脱却を目標とすべきでないとワタクシが主張するのはこうした理由からです。

ちなみに,上で説明したワタクシの消費活動ですが,ハイパーインフレの際にはこうなります。おそらく,インフレに伴う財・サービスの名目価値の急激な上昇を企業収益にすばやく反映できないために名目経済成長率の上昇がインフレに追いつかず,実質経済成長率が一時的にせよマイナスになってしまうでしょう。贅沢を1年間我慢したことのご褒美がマイナスでは馬鹿馬鹿しいので,いま贅沢することになります。しかし,こんな状況が長続きするはずありません。

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さて,上のモデルから重要な結論が導かれます。

「安定的な実質経済成長のためには,実質経済成長率を無理して高い水準に保とうとするのは逆効果である!」

なぜかというと,消費者が高い実質経済成長率を期待してしまうと,消費を我慢することに対するご褒美が多くなってしまい,消費が促進されなくなるためです。消費が促進されなければ,結果的に高い実質経済成長率は維持されないわけですが,その際に昔の記憶が残っていると,この程度のご褒美では満足できずにさらに消費が冷え込んでしまう・・・といった流れになりがちではないでしょうか。

だから,安定的な実質経済成長のために大切なことは,消費者をインフレ期待で「煽る」ことでは決してなく,消費を我慢することに対するご褒美に過度の期待を抱かないように「冷やす」ことではないでしょうか。おしまい。
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