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デフレ脱却は景気浮揚の必要条件ではない [金融]

安倍政権は,景気浮揚のためにはデフレ脱却が不可欠との考えから,日銀に対して2%のインフレ率目標を課すことにしました。これについては賛否両論あるところですが,現時点では肯定的な論調がやや多いように感じます。事実,こうした動きを受けて株価は大きく上昇したわけですから,投資家も好材料と捉えているようです。

ところで,景気浮揚のためにはデフレ脱却が本当に不可欠なのでしょうか。今日はこれについて自説を展開してみたいと思います。まず,教科書にあるような,金融緩和による景気刺激効果についてですが,①中央銀行が民間に資金供給を行うことで金利低下を促す,②低金利で資金調達できるために企業活動が活発になる,③企業収益が増えることで家計収入も増える,④家計収入が増えることで消費活動が活発になる,・・・といったものです。

ただし,景気低迷あるいはデフレ状態が長期化すると,①を行っても②へのバトンタッチがうまくいかないことがわかってきました。1990年のバブル崩壊以後,我が国は「失われた10年(あるいは20年とも)」と言われてきましたが,当時は企業や家計のバランスシートが傷んでいた(=保有資産が含み損状態だった)ために,いくら金融緩和しても企業はバランスシート修復に専念して前向きな投資活動を控えていたため,金融緩和効果は限界的でした。

こうしたケースでは,金融緩和よりも財政政策が有効となりえます。これも教科書にありますが,政府が公共事業等の支出を増やせば,企業活動に直接働きかけることができます。あるいは減税によって企業や家計の徴税負担を減らすというのもあります。安倍政権はこうした財政政策と金融緩和の両輪でもって,景気浮揚を果たそうというわけです。これがアベノミクスです。

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例によって,ワタクシはここでそろそろひねくれます。

「景気浮揚のために積極的な金融緩和や財政政策が期待されるのは理解できるが,結果的にインフレ率が上がるか下がるかはどうでもいいのではないか。」

なぜそう思うかというと,「景気浮揚」という語が「安定的な実質経済成長」と同義であるとすると,「実質経済成長率=名目経済成長率-インフレ率」なので,実質経済成長率を安定的にプラスに保つには,名目経済成長率とインフレ率の間隔さえ維持できればよいためです。すなわち,国民が景気浮揚を実感するのは,名目経済成長率が上昇するからではなく,名目経済成長率とインフレ率の間隔が広がるからであると思います。

こう主張すると,予想される反論は以下のようなものです。

「金融緩和や財政政策は,いずれも名目通貨の下での民間活動に働きかけるものであり,実質経済成長率に直接働きかけるわけではない。したがって,名目経済成長率への働きかけを通じて間接的に実質経済成長率に働きかけることになる。」

しかし,この反論は弱いでしょう。確かに,金融緩和や財政政策は実質経済成長率に直接働きかけることはできませんが,名目経済成長率に働きかける際に,インフレ率にも何らかの形で働きかけてしまうわけです。このとき,名目経済成長率よりもインフレ率により強く働きかけてしまっては,実質経済成長率が下がってしまいます。安倍政権はこの点にまったく答えていないことが問題です。

ワタクシの意見としては,日銀の協力を仰ぎつつ従来よりも積極的な金融緩和や財政政策に取り組むというのはやってみる価値があると思っていますが,それがインフレ率になるべく働きかけないように行うべきだと思います。デフレのまま名目経済成長率が上昇するなら,その方がいいに決まっています。それが名目経済成長率とインフレ率の間隔,すなわち実質経済成長率の上昇につながると思います。

「名目経済成長率に働きかければインフレ率にも影響があるのは当然のことだ」と開き直るのであれば,今回の政策によって,名目経済成長率以上にインフレ率が上昇するといった悲しい事態が起こらない(あるいは起こりにくい)ことの説明がほしいところです。

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いかがでしょうか。この点で,今回の安倍政権と日銀の間の一連のやりとりは,インフレファイターたる日銀の独立性を脅かした意味で,やり方が極めてまずかったと思います。ワタクシはハイパーインフレを恐れているわけではありませんが,日銀の神通力が効かなくなって「インフレ癖」がつくことは避けるべきだと思います。我が国の「デフレ癖」は無理に矯正する必要はないのではないでしょうか。

なお,安倍首相には上記の観点から,日銀法を改正して日銀総裁の解任権を持つなどという危険なアイディアは早く拭い去ってほしいものです。おしまい。
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