ファットテイルの簡単なモデル化について(2010/12/01からの続き) [金融]
ずいぶん昔の話になりますが,以前,株式相場のファットテイルについて少し書き連ねていました。今日は,前々から温めていた簡単なモデル化をご紹介したいと思います。
前回までの議論↓
http://himakou.blog.so-net.ne.jp/2010-08-30
http://himakou.blog.so-net.ne.jp/2010-12-01前々回の議論では,株式相場のファットテイルの要因として,以下のようなイメージを抱いてきました。
① 何らかの要因でいったん大きな変化が起こると,これがきっかけで値動きのボラティリティが高まってしまうようなメカニズム。値動きの最小単位が大きくなるようなイメージ。
上のイメージはいまもまったく変わっていませんが,問題は,①のようなメカニズムがなぜ存在するのかです。これについて,前回の議論では,以下のような仮説を立てました。
② 市場参加者は過去の経験や相場見通し等から「だいたいこれくらいのボラティリティだろう」という予測を持って相場に臨んでいますが,何らかの要因でいったん大きな変化が起こると「ボラティリティの見通しが間違っていたかも知れない」と考え,相場見通しを修正する。市場参加者が「ベイズ推定」を淡々と行うイメージ。
「ベイズ推定」とは我ながら大きく出たものだと思いますが,今回はもう少し話を単純化してみたいと思います。
そもそも市場参加者は,現在の市場価格に対して高いとか安いとかの意見,すなわち「相場観」を持っているはずです。ただし,こうした相場観は一本値ではなく,「ここまで売られたら買ってもいい,ここまで買われたら売ってもいい」といった「値幅」を持っていると考えられます。
市場参加者の「値幅」が狭いときは自分の相場観に自信があるときであり,「値幅」が広いときは自分の相場観に自信がないときであるだろうというのは,自然な発想だと思います。
今回考えたのは,市場参加者が抱く「値幅」が狭いときと広いときで相場の値動きが変わってくるのではないかということです。市場参加者の「値幅」が狭いときは,直前の取引価格からそう離れない範囲で頻繁に取引が成立しやすいため,ファットテイルはそれほど気になりませんが,市場参加者の「値幅」が広いときは,取引が成立しづらい上に,取引価格が直前の値から大きく離れる可能性が高いはずです。
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以上を踏まえ,今回ご紹介するモデルは以下のようなものです。
・ A,B二人の市場参加者が存在する。
・ A,Bはいずれも,自分が信じる適正価格Xa,Xbを抱いている。また,値幅cを抱いている。
・ Xa,Xbは互いに独立に,1秒ごとに半々の確率で+1または-1動く。
・ Xa,Xbが値幅c以上に離れた場合には,Xa,Xbの中間の値で取引成立する。取引成立後はXa,Xbは取引価格に瞬時に移動する。
まず,値幅c=0の場合は以下のように,毎秒で取引成立します。取引成立を「○」で表しています。取引価格の毎秒の値動きのヒストグラム(右図)はファットテイルという感じはしませんね。
しかし,値幅c=2の場合は以下のように,取引成立の頻度が下がり,取引価格の値動きにファットテイルが観測されるようになります。
さらに,値幅c=4の場合は以下のように,さらに取引成立の頻度が下がり,取引価格の値動きによりファットテイルが観測されるようになります。
いかがでしたでしょうか。ありがちなブラウン運動モデルを採用しつつも,市場参加者の取引成立を具体的にモデル化するだけで,ファットテイルが実現できるというお話でした。ご意見お待ちしてます。おしまい。
前回までの議論↓
http://himakou.blog.so-net.ne.jp/2010-08-30
http://himakou.blog.so-net.ne.jp/2010-12-01前々回の議論では,株式相場のファットテイルの要因として,以下のようなイメージを抱いてきました。
① 何らかの要因でいったん大きな変化が起こると,これがきっかけで値動きのボラティリティが高まってしまうようなメカニズム。値動きの最小単位が大きくなるようなイメージ。
上のイメージはいまもまったく変わっていませんが,問題は,①のようなメカニズムがなぜ存在するのかです。これについて,前回の議論では,以下のような仮説を立てました。
② 市場参加者は過去の経験や相場見通し等から「だいたいこれくらいのボラティリティだろう」という予測を持って相場に臨んでいますが,何らかの要因でいったん大きな変化が起こると「ボラティリティの見通しが間違っていたかも知れない」と考え,相場見通しを修正する。市場参加者が「ベイズ推定」を淡々と行うイメージ。
「ベイズ推定」とは我ながら大きく出たものだと思いますが,今回はもう少し話を単純化してみたいと思います。
そもそも市場参加者は,現在の市場価格に対して高いとか安いとかの意見,すなわち「相場観」を持っているはずです。ただし,こうした相場観は一本値ではなく,「ここまで売られたら買ってもいい,ここまで買われたら売ってもいい」といった「値幅」を持っていると考えられます。
市場参加者の「値幅」が狭いときは自分の相場観に自信があるときであり,「値幅」が広いときは自分の相場観に自信がないときであるだろうというのは,自然な発想だと思います。
今回考えたのは,市場参加者が抱く「値幅」が狭いときと広いときで相場の値動きが変わってくるのではないかということです。市場参加者の「値幅」が狭いときは,直前の取引価格からそう離れない範囲で頻繁に取引が成立しやすいため,ファットテイルはそれほど気になりませんが,市場参加者の「値幅」が広いときは,取引が成立しづらい上に,取引価格が直前の値から大きく離れる可能性が高いはずです。
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以上を踏まえ,今回ご紹介するモデルは以下のようなものです。
・ A,B二人の市場参加者が存在する。
・ A,Bはいずれも,自分が信じる適正価格Xa,Xbを抱いている。また,値幅cを抱いている。
・ Xa,Xbは互いに独立に,1秒ごとに半々の確率で+1または-1動く。
・ Xa,Xbが値幅c以上に離れた場合には,Xa,Xbの中間の値で取引成立する。取引成立後はXa,Xbは取引価格に瞬時に移動する。
まず,値幅c=0の場合は以下のように,毎秒で取引成立します。取引成立を「○」で表しています。取引価格の毎秒の値動きのヒストグラム(右図)はファットテイルという感じはしませんね。
しかし,値幅c=2の場合は以下のように,取引成立の頻度が下がり,取引価格の値動きにファットテイルが観測されるようになります。
さらに,値幅c=4の場合は以下のように,さらに取引成立の頻度が下がり,取引価格の値動きによりファットテイルが観測されるようになります。
いかがでしたでしょうか。ありがちなブラウン運動モデルを採用しつつも,市場参加者の取引成立を具体的にモデル化するだけで,ファットテイルが実現できるというお話でした。ご意見お待ちしてます。おしまい。
2013-05-12 16:10
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