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病人が増えないと医者が儲からない件 [理数系思いつき]

こんにちは。最近の日経新聞「やさしい経済学」では,医療の公平性について論じており,部分的に勉強になるなあと思っています。その中で,今日は2/26付にあった「病人が増えないと医者が儲からない件」について,自分なりの考えをまとめてみました。記事によれば「日本の医療制度では,地域住民が健康になることが医療機関にとっての経営リスクになっている」とあります。いままでこういう視点で考えたことはありませんでしたが,確かに医者にとっては一定数以上の病人や怪我人がいてくれないと,経営が立ち行かなくなるはずです。

そうなると,(記事にはそこまで踏み込んで書いてはいませんでしたが)大した病気でもないので何だかんだ理由をつけて医者から離れないように仕向けたり,あるいは短期間で治癒するはずの病気をあえて長引かせて治療したり,といったインセンティブが医者に働きかねません。これは,コンプライアンスの問題として捉えることも可能ですが,コンプライアンスの責任は悪徳医者だけが背負うべきでなく,悪徳医者を生み出しやすい医療制度も問われるべきです。

記事では英国の事例を紹介しています。2004年からQOFという医療制度が一部導入されており,地域毎に病気の発生率に応じた成果払いが行われているということです。つまり英国では,医者が実際の患者のみから収入を得るのでなく,担当する地域住民の健康維持・増進度合いによっても収入が得られるという仕組みがあります。これはいわば,医者が患者だけでなく健康な住民からも収入を得ている(=住民の健康を維持・増進したことの報酬を得ている)と捉えることもでき,医者のインセンティブ付けとしては極めて好ましいもののように思えます。

是非我が国でもこうした制度を導入してもらいたいものです。こうした制度の中で,産婦人科医のなり手がいないとかいった,医者の需給バランスの改善も取り込めるのではないでしょうか。以下,自分なりに制度設計上のポイントを考えてみたいと思います。

(1)地域住民の健康維持・増進に伴うインセンティブ収入は,少なすぎては効果が薄く,多すぎては医者の競争原理が働きにくくなるので,適切な水準を定める必要がありますが,これは意外と難しい。また,インセンティブ収入を医者の間でどう「山分け」するかも難しい。実際に診た患者の治癒・回復度合いおよび地域住民全体の健康維持・増進度合いを両にらみで点数換算する必要がありますが,このあたりは英国がどうやっているのか,気になるところです。

(2)インセンティブの請求先はやはり健保組合とするのが合理的に思えます。保険加入者が大きな病気をしないことは保険金支払を抑えることにつながるので。そうすると,保険加入者から徴収した保険料から,保険金支払を差し引いた「純利益」を健保組合と医者で「山分け」するのが自然ですが,保険加入者の健康維持・増進は健保組合も取り組んでいるはずので,このあたりを勘案して分配率を決めることになります。

(3)一般に,保険金支払が少ない健保組合ほど保険料の徴収が少なくなるべきですが,上のように考えると,健康維持・増進にかかるベース部分は「固定費」に近いイメージになると思います。この「固定費」の金額については,工場が多くて空気が悪いとか,中国からPM2.5が飛んできやすいとか,そういった地域差を考慮すべきかも知れません。ただ,工場が多いことと病人が多いこととの因果関係を証明するのは事実上不可能なので,地域毎の長期平均値を用いるくらいしかないような気もします。

おしまい。
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